父からの電話

昨日、病院を出て家に帰り、部屋着に着替え、さて少しゆっくりしようかと思っていたら……
仕事中の姉から電話がかかってきた。姉は「お父さんが電話をかけてきた、お母さんを連れて帰って欲しいと話してる」という。びっくり。
父のベッドサイドには携帯電話を置いてあるが、もはや(起き上がれない、、持てない、声が出ないで)安心のお守りのようなもの。かけられないだろうと思っていた。それが、かけてきたという。
どうやって携帯電話をとったのか! 操作がまだ出来たの? 声出てたんだ! 
まずその事に驚き、妄想については「あららあ」と思った。
母が病院にいる訳がない、だってさっき小規模多機能施設から家に帰ってきて、うちのベッドで眠っているのだから。

酸素マスクがとれた後、猫とインド人が病室にいるとか、ムカデのようなものが見えるとか話していたが、ここ数日はしっかりしていたのに。
慌てる姉に「だいじょうぶと思うよ」と言ったものの、さてどうしようかと考えていたら、私のところにも父から電話がかかってきた。出ると、やはり「お母さんを連れて帰ってあげてくれ」と言う。
その言い方がけっこう必死だったので、心配になり、「だいじょうぶやで、探すから」ととりあえず話しを合わせて切り、すぐに病院に連絡した。
もう20時をまわっていたので、電話がうまくつながらず、そのうちだんだん心配になってきて……えいや!っと部屋着の上にコートを羽織って、家を出た。病院までは徒歩10〜15分。待っているより、電話で話すより、行ってしまった方がいいと思った。

面会時間は過ぎているが、事情を守衛さんに話し入れてもらい、病室へ。
父はまだ、とても慌てていた。途切れ途切れの、聞き取りにくい声での話をまとめると、こうだ。
母が昼間に会いに来たが、帰り方がわからないまま、病院内で迷子になっている。自分が探しに行きたいが、こんな体で行けない。どうか探して、連れて帰ってあげてくれ……と。
日曜日に母と会ったことや、昔に母が迷子になって探しまわったことが混じった何ともせつない妄想である。
母がよく迷子になっていたのは、十年ほど前のことだが、印象的だったことが出てくるのだなあと思った。
「お母さん、ちゃんと帰ってきてるよ。だいじょうぶやで」と言うと、「ああ、良かった」と父はすごくほっとした顔をした。
「それにしても、よく携帯電話かけてきたな」と私が言うと、父は「もう必死や」と。
そうか、この状況でもお母さんのこと、必死に守ろうとしてるんやなあ。
父はわがままで偉そうで頑固で、みんなに迷惑をかける困った人であるが、母に対してだけはすばらしい人だと実感。
「お母さん、もう家のベッドで寝てるし、お父さんも、はよ寝えや」と言うと、「よっしゃ、わかった」と安心して目を閉じた。
夜勤の看護師さんに、よーく頼んで病院を出た。

で、今朝7時にまた、電話がかかってきたが、朝は父が上手く話せず、何かわからないまま切れてしまった。
私は今日は梅花女子大学の講義日で、病院に行けない。姉に話すと、自分が仕事に行く前に何とか(病院に)寄ってみると言ってくれた。→ 母のことをまだ話していたらしいが、まあ、落ち着いていたそうだ◎
看護師さんがいて下さるので、何かあれば病院からかかってくるはずなのだが。父が不安なまま、心細いまま時間を過ごしているかもしれないと思うと、たまらない。母の時を今から思い返してみると、認知症の初期はとにかく不安だと思うのだ。
ここがどこかわからない、なぜここにいるかわからない、これからの予定がわからない、昔の記憶が出てきて今とごっちゃになる……
心細い思いは、なるべくして欲しくない。明日は、必ず会いにいこう。


by honnara-do | 2017-12-21 23:40 | 家族 | Trackback

作家・楠章子のきまぐれ*のんびりブログ*日々のささやかなことを書いていこうと思います


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